富士幻豚物語

富士幻豚を知る

1.富士幻豚(ふじげんとん)概要

富士幻豚(ふじげんとん)は静岡県富士宮(ふじのみや)市を中心に生産をされています。
富士幻豚としては年間500頭前後販売されている、希少銘柄になります。

富士山周辺の地域で育てられた元祖テーブルポークと言われる
「中ヨークシャー種」50%以上で作出された特別交配種です。

中ヨークシャーは独特の香りとうまみ成分の多さから、昔から日本で広く生産されてきました。
しかし、高度経済成長期に入り大量生産、効率を重視する過程で現在の「三元豚・LWD(えるだぶるでぃー)」が
主流となり、一時は日本国内で7頭しか存在しないまでに絶滅の危機に瀕しました。

そんな中、「経済効率が悪くても、世界中のどの品種と比べても一番おいしい
中ヨークシャー種を何とか後世に残していきたい」と豚の人工授精、品種交配の第一人者である桑原氏他、
中ヨークシャー生産者有志が心血を注いで作り上げ、育てたのが富士幻豚(ふじげんとん)です。

 

2.富士幻豚物語

戦後の昭和、高度経済成長の日本に海外からの大型品種が押し寄せてきた時、
日本は大きく経済効率重視の方向に転換していきました。

人口は増え物は大量に生産され、多くの日本人が今日よりも
明日を豊か にする思いで一生懸命働いていたそんな時代でした。

その頃の日本で食べられていた豚肉は、日本の6大品種の1つである、
中ヨークシャーという白豚の品種と、バークシャーという黒豚の品種で
特に中ヨークシャーという品種が日本の養豚の80%を占めていました。

中ヨークシャー種は、独特の香りとその旨み成分の多さから
『元祖テーブルポーク』として美味しい豚肉として皆に愛される存在でした。

しかし、経済が伸びていく中で、人口も多くなっていき大量生産、効率化が求められ
安価で安い豚を追い求めるようになりました。もっと安価に大量生産できる豚肉の輸入を
アメリカ手動の経済政策の中で実行していくことになります。

具体的には、海外産の安くて大型の豚肉を輸入していくことになっていきます。
効率重視の品種改良の結果、現在まで主流の三元豚(さんげんとん)である、
『LWD(エルダブルディー)』が誕生しました。

日本中の豚の生産量の80%以上を占めていた中ヨークシャーは、
そのLWDに生産を切り替えられ、生産は減少していくことになります。
実際に中ヨークシャーは、LWDと比べて食味は良くても、中型で肥育期間が長く
飼料代などコストがかかる割に、赤身率も低く産肉性では劣っていました。

しかしそんな時代環境の中でも、桑原氏はあえて経済効率の対局にある
『中ヨークシャーの美味しい豚肉作り』を追求することをやめませんでした。
海外からの経済効率重視の豚ではなく、昔から愛されていた日本人の舌にあう
豚肉を作り続けようとしました。

桑原氏は元々種豚農場を家業でされていて、日本中の養豚農家に品質の良い
サラブレッド級の種豚、母豚の供給を行っていました。自身も獣医師で、
海外の養豚の人工授精の普及に負けないように、日本でも人工授精の
普及に努めていました。

そういった意味で、桑原氏の育種への情熱こだわりはとても高い
レベルにあると思います。

実際に、桑原氏は海外に出向き、自分の目で質が高い中ヨークシャーの種豚を輸入しました。
親豚を10頭輸入しても、相対的に肉質の悪い7頭は淘汰(とうた)したそうです。
1頭しか残らないときもありました。いい子、孫は相対的に1割しか残らないからです。

むしろ親豚の能力を越える豚肉が生まれる確率は非常 に少ないそうです。
桑原氏は、富士幻豚(ふじげんとん)を生産する過程で後代検定をして、
妥協しない選抜圧を繰り返しました。それは気が遠くなるような地道な作業でした。
何度も失敗を繰り返し、何度も諦めそうになったそうです。そんないつ評価されるか
わからないものを作り続ける桑原を見て、まわりの同業者は冷ややかな目を向けていたといいます。
それでも愚直にやり続ける日々。1つの信念に支えられていました。

『世界の豚肉に負けない、日本人の舌に合う国産の豚肉を作る。』

現在、桑原氏のところには「肉質の悪い豚はいない」という
認識が養豚業界での評価になりました。
実際に、日本中の銘柄豚を生産する養豚農家に種豚を供給しています。

地域の肉屋と密接な関係を築いており、「今日の豚は良かった、悪かった」と電話が入ります。
そしてどの農場のどの系統の豚かを調べ、残すべき品種かどうか判断するそうです。

お肉屋さん現場まで肉質を確認しながら育種に取り組む人は
他にはなかなかいらっしゃらないのではないかと思います。
桑原の育種はまさに職人芸です。
今では、どんな肉質にするか、背脂肪をどのくらいにするか、
強健性を高めるため肢蹄・骨格をどうするか等々、どんな豚を育種するか
自在に追求できるようになっているそうです。

こうした育種の努力が、後述する横浜市場での
極上枝肉を富士農場系が独占する驚きの事態に
繋がっていくことになります。

こうした育種へのこだわり、長年の選抜交配を繰り返す中で
納得のいく育種が、幻の中ヨークシャー、それもサラブレット級の
中ヨークシャー種によって生み出された
富士幻豚(ふじげんとん)が出来上がったのでした。

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